「その瞬間、江さんの目から涙がこぼれ落ちました。よほど悔しかったのでしょう」――北京の消息筋はいった。 八月後半、中国共産党中央軍事委拡大会議が開かれ、江沢民・同委主席の辞任を内定、九月十六日から十九日まで開催する第十六期党中央委員会第四回総会(四中総会)で江辞任と胡錦濤総書記の党中央軍事委副主席から主席への昇格を決定する可能性が高まっているという。事態はいまだ流動しむしろ不透明さを増しているが、中南海の深奥で熾烈な権力闘争が展開されていることは間違いない。 九月六日付の米紙ニューヨークタイムズ(電子版)が「江、引退も」と報じ、「突然の政変劇か」と注目を集めた。たしかに辞任となれば「政変」には違いないが、二年前の十六回党大会の経緯を振り返れば、「突然」とは言いきれない。 当時、筆者が本誌でレポートしたように、江は続投を求める軍首脳らの求めに応じ、「幹一段バ(もうしばらくやりましょうか)」とツルの一声を発し、中央軍事委主席に居座った。「幹一届バ(もう一期やりましょうか)」といわず、任期(五年)中途で辞任する意向をにじませ党と軍内の合意を取りつけたのである。表向きには「胡ら後継者育成のため」を掲げており、当初から「任期の半分を超えるのは無理がある。留任のメドは二年」と見られていた。もっともその後、江は実質的な最高指導者として露骨なまでに権勢を膨張させ「幹一段バ」の口約束はかすむ一方だったから、「突然の政変」と受けとられたのも無理はないのだ。

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