「ウィリー・ホートンの再来だよ」 八月末来日した、ゴア前米副大統領の元アドバイザーが半ばあきれ顔でつぶやいた。同じ時期に東京を訪れた元米政府高官は「汚い中傷合戦になると、民主党は弱いから」とブッシュ勝利を予想した。 二人が言うのは、ケリー民主党大統領候補の軍歴を中傷するテレビコマーシャルのことである。「ウィリー・ホートン」はアメリカ政治では極めて有名な人名だ。ホートン本人が政治家というわけではない。凶悪なレイプ・殺人犯ホートンはただ、テレビコマーシャルに利用されただけだった。 一九八八年の大統領選挙。ブッシュ現大統領の父、ブッシュ候補(当時副大統領)は民主党のデュカキス候補(同マサチューセッツ州知事)に最大一六ポイントもの差をつけられて苦戦していた。その差を一気に追い抜き、大勝した、代表的なコマーシャルとして、ホートンは有名なのだ。 ホートンは、マサチューセッツ州の“受刑者週末帰宅制度”を利用して行方をくらまし、逃亡中にレイプを犯した。テレビ画面にはホートンの顔写真と刑務所の回転ドアから週末に多くの囚人が出て行くシーン。そして「多くがなお行方不明です」という文字が繰り返し流された。歴史的な「最も怖い選挙広告」(ニューヨーク・タイムズ紙)だ。

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