「ドイツ銀行が国内の支店網を売却し、本店をロンドンに移す」と囁かれたのは二年前だった。伝統的にリテール(小口金融)事業を重視してきた欧州金融界が、一気に投資銀行業務へとシフトしたのは一九九〇年代以降のこと。ドイツやスイスなどの大手銀行は、国内に多数の店舗を維持しなければならないリテールを不採算事業の典型とみなしたのである。 ところが、いまや状況が一変している。彼らのテーマは「リテール再強化」。ドイツでは六月に郵便貯金民営化会社のポストバンクが上場したが、その際、ドイツ銀行が同行を買収する可能性が取り沙汰された。実際、ドイツ銀行が役員会で買収案を検討したというのは関係者の定説になっている。コメルツ銀行もドイツ南部が基盤のシュミット銀行を買収したほか、結局は破談になったもののオランダのINGが傘下に持つ独BHF銀行の買収にも名乗りを上げた。 独銀だけではない。スイスに本拠を置くクレディ・スイス・グループも、投資銀行部門であるクレディ・スイス・ファースト・ボストン中心の事業戦略からリテール重視へと振り子を戻している。同社はドイツ国内のリテールに進出を狙って、“売り物”を物色中と言われる。 なぜ再びリテールなのか。まず第一の理由に、投資銀行業務が儲からなくなったことが挙げられる。IT(情報技術)バブルが崩壊したことでM&A(企業の合併・買収)ブームが去り、国際的な株価の上昇も止まった。こうした要因から投資銀行のビジネスチャンスが減っている。

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