四月後半に三菱自動車への支援打ち切りを突然発表した独ダイムラークライスラー内部で、新たな動きが生まれている。まだどこまで育つかは不透明だが、少なくとも注目しておく価値はある。「年度末までには『再生シナリオ』の成果がはっきりしてくるでしょう。その時、この構想が現実に動き出すかもしれない」。そう語るダイムラー中枢の事情に詳しい関係者によれば、ユルゲン・シュレンプ社長の右腕エックハルト・コルデス取締役と、同じく側近であるルーディガー・グルーベ取締役の周辺で、密かに「三菱買収構想」が練られている。 この春から夏にかけ、シュレンプ社長は窮地に立たされた。自らが先頭に立って提携戦略を進めた三菱が経営悪化と欠陥隠しで汚名に塗れ、シュレンプ社長の責任問題に発展したのである。支援打ち切りの理由がここにあったのは言うまでもない。取締役会は内部対立に揺れ、一時は社長の退任説すら囁かれた。 だが、七月末に発表された役員人事を見れば、コルデス氏がダイムラーの中核であるメルセデス部門の統括に就任するなど、シュレンプ社長の巻き返しが見て取れる。再び足場を固めた次の一手が、「買収構想」なのはなぜなのか。 ここには、ダイムラーが支援の手を引いた後、居直るかのように独自路線を進み始めた三菱に対する苛立ちが滲んでいる。ダイムラー抜きの増資で出資比率が下がったとはいえ、まだダイムラーは約二二%を握る大株主なのだ。それを蔑ろにして「三菱DNAの追求」を謳い出すとは何事か。いっそのこと買い取ってしまった方がコントロールが利く――。

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