姦通罪とトルコの脱亜入欧

執筆者:徳岡孝夫2004年11月号

 フランスの小噺に「銀行預金と女房の話は、親しい友にもあまりしない方がいい」というのがある。なぜなら「ときどき借りられるから」。 トルコがEU(欧州連合)への加盟に備え、その障害になりそうな姦通罪(禁固二年以下)を刑法改正案から削ったというニュースを読んだ。うっかりトルコ人の友達の奥さんを借りてしまっても、慰謝料を取られこそすれ刑事犯としてブチ込まれる心配はなくなった。念のために申し添えるが、これはかつて日本の紅灯の巷を席捲した「トルコ嬢」との恋には何の関係もない。 トルコ国民七千万の九九パーセントはイスラム教徒で、イスラム教が婚外性交に極めて厳しいことはよく知られている。夫は間男した妻を刺し殺してもよく、姦夫も石打ちの刑によって殺される。いまはイスラム国家も近代刑法を持っているはずで、石打ちが常時行われることはないようだが、姦通(ソフトに言えば不倫)への厳格な態度は、それぞれの刑法により受け継がれているに違いない。 トルコが加盟を望むEUの側は、色合いの差こそあれ圧倒的にキリスト教で、これもまた夫婦を核とする婚姻観を持つ宗教である。情慾を抱いて女を見る者は、すでに姦通の罪を犯したに等しいと教えている。

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