長崎県の生月島――。佐世保から北西へ車で一時間半、島の北端に立つ大バエ灯台から対馬海峡が一望できる。潮の流れは速い。風もある。ややグレーを帯びた藍色の海のあちこちで白波が騒いでいる。対馬海峡に面する場所ではどこででも見ることのできる海だが、この島の沖は特別の海域である。北に五キロの海底八十二メートルに、不思議な役割を果たすコンクリート・ブロックが沈み、人工の海底山脈を形成しているのだ。ブロックの数およそ五千個。一個は一・六立方メートルの大きさである。 コンクリートと言っても、ただのコンクリートではない。砂利と砂を一切使わず、セメントも普通の三分の二の量を使うだけで同じ強度が出せる。砂利と砂の代わりに使っているのが、石炭火力発電所が処理に困っている石炭灰である。だから、コンクリートではなく「アッシュクリート」と呼ばれている。産業廃棄物の再利用に役立っているだけではなく、アッシュクリートは海水中では普通のコンクリートより強度に優れ、比重も小さいから海底の泥の中に沈下埋没しない。いったん置けば、半永久的に使える。 この海底山脈には二つの峰がある。峰の高さは十二メートル。峰と峰の間は六十五メートル。山脈全体の長さは百二十メートル。幅は六十メートル。長年の実験結果によって決まった形である。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。