欧州の「同性カップル」たち

執筆者:大野ゆり子2004年12月号

 米大統領選の大きな争点の一つとなった同性結婚問題。選挙終盤戦でこの問題をめぐる議論が活発化したちょうど同じ頃、大西洋を挟んで欧州でも、「同性愛」をめぐる問題が欧州議会をおおいに揺るがした。 ことの発端は次期欧州委員会副委員長として、司法、内務を担当するはずだった、イタリアのロッコ・ブッティリオーネ氏が聴聞会で行なった発言。熱心なカトリック教徒で、ローマ法王の右腕ともいわれる氏は、法律と道徳は違うと断った上で、「同性愛は罪(sin)だと思う」と述べ、「女性は子供を持ち、男性に保護される権利がある」といった保守的な価値観を披露した。これは政策には影響しない個人の信条だと述べたが、欧州議会市民権委員会は、同氏を不適任と判断。これにより欧州連合(EU)の内閣にあたる欧州委員会が予定の期日に発足できないという、前代未聞の騒動が起きた。 ブッティリオーネ氏が候補を辞退することで、取りあえず事態は収拾に向かったが、哲学の教授で七カ国語を話すインテリの同氏の発言が、単なる軽率な失言ではなく、カトリックの信条に基づくものだっただけに、EUが一つの価値観に向かう困難さが印象づけられた。 欧州でも、同性愛者をめぐる環境はさまざまである。一九八九年にデンマークが、相続、社会保障、税金などでほぼ法律上の夫婦と同等の権利を与える法律を通過させ、他の北欧諸国がこれに続いた。二〇〇一年にオランダ、二〇〇二年にベルギーが同性婚を許可。ドイツではこの十月末に、養子縁組を含む同性婚法案を下院で通過させた。

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