「ドル暴落ショック」は避けられるのか

執筆者:清水功哉2005年1月号

為替介入経験のないブッシュ政権はドルの下落をコントロールできなくなる可能性がある。「最悪シナリオ」を避けるには財政赤字減らしが欠かせないが……。

 ロシアで――。通貨ルーブルをドルに連動させる仕組みを改め、ユーロを中心に構成する通貨バスケット指標に連動させる方法を導入へ。
 中東で――。サウジアラビア、クウェート、バーレーンなど中東六カ国で構成する湾岸協力会議は、二〇一〇年を目標に導入する単一通貨を、ドルだけでなくユーロも含めた通貨バスケット指標に連動させることを検討。
 中国で――。ドルに対して相場を固定している通貨人民元の制度改革案として、やはり通貨バスケットを連動対象とする案が浮上。
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 輸入によって海外にドルをいくら撒き散らしても、ドル安・自国通貨高による経済への悪影響を恐れる海外の通貨当局がそのドルを買い支え、米国債に再投資してくれる――。そんな基軸通貨国・米国の特権がほころび始めている。
 大きいのは、一九九九年の欧州単一通貨ユーロの登場だ。たとえばロシアは貿易の半分がヨーロッパ向け。ユーロの存在感が増すにつれ、ドルの動きだけを注視する必要性が薄れてくる。通貨バスケット指標を導入すれば、仮にルーブルの対ドル相場が上昇しても対ユーロで下落しているのであれば放置できる。つまりドルを買い支える必要はない。
 原油価格高騰で生じた巨額のオイルマネーでも、ドルからユーロへのシフトが起きている。国際決済銀行(BIS)調べによると、石油輸出国機構(OPEC)加盟国の預金のうちドル建ての比率は三年前の七五%から六一・五%に低下。代わりにユーロ建ての比率が一二%から二〇%へと上昇したという。
 もっとも、「ドルの地位低下」を招く要因はユーロの誕生だけではない。肝心の米国側がそれに拍車をかけかねない動きをしているのだ。「再選を果たしたブッシュ政権は、本音では緩やかなドル安を容認する」。大統領選挙の前後、ニューヨーク、ワシントンでの取材でそんな声を多くの人たちから聞いた。米国がドル安を容認するのに、あえてドルを買い支えるのは妥当なのか。世界の主要国がそんな疑問を抱いても不思議はない。

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