台湾立法委員選挙の意味深長な結末

執筆者:早田健文2005年1月号

「台湾人意識」を前面に立てた陳水扁路線にブレーキがかかった。さりとて大敗北を喫したわけでもない。この選挙の結末をどう読むべきか。[台北発]十二月十一日に投票が行なわれた台湾立法委員選挙(定数二百二十五)が、野党連合(国民党、親民党、新党)百十四議席で過半数獲得という結果に終わった。これを見て与党・民進党支持の三十代女性は「これが『民怨』というものです」とつぶやいた。 三月の総統選で僅差ながら陳水扁総統を再選させた台湾の人々は、今回は陳総統が率いる与党連合に過半数を与えなかった。これによって、陳政権が発足以来抱える少数与党の苦悩は、今後三年間陳総統の任期終了間際まで続くことになる。このため、与野党の議席配分は選挙前と大差はないものの、勝利した総統選の勢いに乗れなかった与党連合のほうに敗北感が広がっている。 陳総統は理念として、自らを中国人ではなく台湾人であるとする意識を掲げ政策を展開してきた。その進め方が性急すぎて野党や中国との対立をいたずらに煽ることを有権者が憂慮したのが、今回の敗因だとされる。つまり、与党連合の得票を抑えたのは「台湾人意識では飯は食えない」という不満だ。 陳政権としては、中国との経済関係緊密化によって台湾の経済的自立性が失われるのは避けたい。さりとて巨大な消費地であり労働市場である中国を無視することは、台湾企業の死活にかかわる。このジレンマから抜け出せない陳総統の政権運営に、有権者は合格点を与えなかった。五九%という台湾では稀に見る投票率の低さは、台湾人意識そのものへの警戒というよりむしろ、選挙を再びアイデンティティー論争に終始させた陳総統への嫌悪といえる。実際、選挙後の陳総統の支持率は二〇〇〇年の就任以来最低の三四%と台湾紙「聯合報」は伝えている。

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