[ニューデリー発]インドとパキスタンとの関係改善が進んでいる。二〇〇二年に核戦争勃発の危機まで叫ばれた両国は、相互に召還した外交団の復帰や鉄道、バス、航空路線の再開、国民に人気の高いクリケットの交流試合、ジャーナリストの相互訪問など「国民同士の交流」を広げ、最大の懸案であるカシミール問題にも手を付けようとしている。 現在の和平機運は、核戦争の危機を乗り越え二〇〇三年春にインドのバジパイ首相(当時)が和平路線を提唱したのに端を発する。パキスタンのムシャラフ大統領も「カシミール問題解決が最優先」というそれまでの態度を軟化させ、国民同士の交流促進、信頼醸成措置を先行させることに同意した。背後には米国を中心とする国際社会からの圧力もあった。二〇〇四年一月にイスラマバードで行なわれた両首脳の会談で、カシミール問題を含むすべての問題に取り組む「包括的な対話」の開始で合意。実務者レベルや外務次官、外相の協議などを重ね、核実験停止やミサイル実験事前通告の継続、軍同士のホットライン新設など信頼醸成措置を次々に発表した。 しかし「信頼醸成」や「関係改善」のムードばかりが先行し実質的な進展に乏しいのも確かだ。核実験停止などはこれまでの措置の追認・確認に過ぎず、経済交流や貿易拡大もほぼ一方的にインド側の輸出超過でパキスタン側の不満は次第に募っている。そうした中、パキスタンが「本丸」と位置付けるカシミール問題に直接かかわるのがスリナガル(インド側)―ムザファラバード(パキスタン側)のバス路線復活問題だ。インドのシン首相は十一月、カシミール駐留軍削減を発表、既に一部が撤退したが、最終的な撤退規模は四十万人以上いるインド兵のうちの二万人程度とみられ、実質的にはバス路線の方が大きな意味を持つ。カシミール問題に対する両国の基本方針にかかわるからだ。

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