17世紀の絵画に見るオランダの「宗教とモラル」

執筆者:大野ゆり子2005年1月号

 アムステルダムの国立美術館にあるフェルメールの前には、日本からも多くの人が足を運んでいる。窓から差し込む陽光の温かみや、ミルクを注ぐ音まで感じ取れそうな静謐な空間。まるでスナップショットのように人物の一瞬の表情を永遠の中に封じ込めた作品は、比較的最近まで、当時のオランダの室内風景を忠実に再現した写実的な作品だと思われてきた。 しかし、写真とみまがうばかりに緻密にかかれたオランダ風俗画には、なぜそこに描き込まれたか判らない場違いな小道具が登場する。ここ二十年ほどの研究では、この風俗画が実際の風景ではなく、当時、誕生間もないオランダの国策だった宗教教育、モラル指導を反映していることが判ってきた。 たとえば、フェルメールと同時代の画家ヤン・ステーン(一六二六頃―七九)のこの絵。床いっぱいに食べ物や食器が散らかった部屋。犬や豚が食べかすに鼻をくっつけている。グラスを片手に媚びた視線をこちらに投げかける派手な衣装の女。その膝に気安く足を乗せる男。画面左側には、居眠りをする女の周りに、いたずらをする子供たちが描かれている。 お祭り騒ぎの後を描いたと思えなくもないが、それにしては、部屋の真ん中の天井に吊り下げられた箒などが入った籠の意味が判らない。

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