戦場に行く人 行かずに論じる人

執筆者:徳岡孝夫2005年1月号

 単に「香田さん」では、もう通じない方があるはずだ。イラクに行って人質になり、ビデオで「もういっぺん日本に戻りたいです」と言ったのを最後に殺され、遺体を路傍に捨てられた香田証生さん。そう言えばようやく「ああ、あの人」と思い出してもらえるだろう。 Tシャツに短パン、無防備・無警戒で戦場に入っていった二十四歳の若年非職者。すぐ忘れてしまって構わない、イラク戦争の一挿話。香田青年は、日本人からそういう眼で見られた。だが、それが彼の物語のすべてなのか? 米軍がファルージャで香田さんの旅券を拾った。テロ指導者ザルカウィの一派は、手に入れた日本青年をファルージャのスタジオ兼アジトに連れていき、黒覆面の男三人で取り巻いて撮影し、そそくさと殺したのだろう。 彼らはイギリス人マーガレット・ハッサンも、同じような「儀式」の後で殺した。イラク人と結婚し、何十年もイラクで人道的支援に献身してきた女性である。殺してよい理由など、一つもない。彼女はカメラの前で泣いて訴えたが、結局は殺された。 米軍のファルージャ掃討により、ザルカウィは死んだのか逃げたのか、少なくとも手兵の一部または大部分を失ったらしい。人質の誘拐・撮影・斬首は、いまのところ熄んでいる。いまなら香田青年が行っても、危険度は少し減っていたところだった。

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