「新しい中東」の命運を分ける三つの選挙

執筆者:畑中美樹2005年2月号

二〇〇五年は中東の転換点だ。イラク、サウジ、そしてイラン――先に待つのは「新しい中東」か、それとも大混乱なのか。「地政学の時代」から「地経学の時代」へ――。一九九〇年代以降の中東を総括すれば、こんなフレーズが浮かんでくる。 最悪の場合、米ソの直接対決に発展しかねない国際紛争としてのアラブ・イスラエル紛争は、冷戦終結後、イスラエルと周辺アラブ諸国の地域紛争へと性格を変えた。国際政治環境における中東の存在感は、この時期、相対的に低下したのだ。 市場経済の浸透に背を押されて台頭するグローバリズム。「国家」はこうした流れに棹さしながら、あたかもホームグラウンドを欲しがるように各地で新しい地域主義を模索した。中東の国々も、もう政治スローガンの連呼に明け暮れてはいられなかった。アラブの盟主を自任するエジプトが社会インフラの民営化を進め、EU(欧州連合)との自由貿易圏構想を推進したのは好例だ。 あるいは、UAE(アラブ首長国連邦)の一構成国に過ぎないドバイがサービス経済に特化した国造りを進められたのも「地経学」時代の恩恵だと言える。湾岸諸国にとってアラブ・イスラエル紛争の“格落ち”は、紛争の動向に――完全にではないにせよ――振り回されずに済むというメリットをもたらしたからだ。

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