アネリー・ボタは、1980年代以降、ケニアから主にサウジアラビアに留学した多数のイスラム教徒が、イスラム教の原理主義一派であるワッハーブ派の教えを身に着けてケニアに帰国し、過激主義を広める役割を担っている事実に着目する。

 人がテロを起こすには「自らの行為」と「その正当性」を橋渡しする思想的媒介項が必要だ。かつて、それがマルクス主義だった時代もあるし、特定の宗教だったこともある。21世紀初頭の今日においては、イスラム教の中の過激主義思想がその役目を担ってしまっているのだ。

 その上で、ボタは、彼らのリーダー層が近年、サウジアラビアなど中東産油国から送られてきた資金を原資に、ケニアの低開発地域でインフラ建設や奨学金提供などを行なっている事実を挙げる。本来ならば政府によって提供されるべき公共サービスが存在しない地域で、過激派がサービス提供を代行することによって住民の支持を獲得しているのである。そこには、パレスチナ自治区ガザにおけるハマス、レバノンにおけるヒズボラの支持拡大と同じ構造を見ることができる。

 

「過激主義」を生み育てる複雑な条件

 9・11テロ以降、米国は軍事的対応だけでなく開発援助もテロ対策の一環とする政策を掲げ、アフリカ向け援助を倍増した。

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