南アルプス市が目指した「本当の合併」

執筆者:水木楊2005年2月号

 JR甲府駅から車で西へ二十分、南アルプス連峰の麓に広がる南アルプス市。人口約七万二千人。山梨県下では甲府市に次ぐ人口を誇る。 この町で二〇〇四年十月二十八日、全国でも珍しい出来事が起きた。自治体の合併に伴う特例で国から認められた議員任期(在任特例)を四カ月間短縮して、議会が自主的に解散したのである。「解散」の二文字を聞いただけでバッジをつけた人種は身震いするものだ。たった四カ月とはいえ、議員自ら自分の首を切る決定を下すのは、異例中の異例だ。 山梨県中巨摩郡の櫛形、白根、若草、甲西の四町、八田、芦安の二村の六町村が合併し「南アルプス市」が発足したのは〇三年四月のこと。カタカナの市名は全国にひとつしかない。ほかに古くからの地名である「こま野」が新市名候補に挙がったが、青年会議所など若い層が「南アルプス」を熱烈に支持した。新市には富士山に次ぐ高峰の北岳を軸とする南アルプス連峰があった。「南アルプス」のブランドは成功した。新市名が決まったとき、NHKは「カタカナ市誕生」を全国に報じたし、同じ日に合併した市町村は他に十あったのに行政視察が殺到し、百八十五団体、二千七百人が押し寄せて市役所の事務が滞る事態まで発生した。「新市名が気に入った」という経営者まで現れ、プラスチック加工業の工場進出が決まった。

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