悪かったね米軍駐留下の投票で

執筆者:徳岡孝夫2005年3月号

 前にこのコラムで吉野家の話をしたことがある。一年ぶりに一日だけ、手持ち米国産牛肉で牛丼を「復活」させたので、吉野家から牛丼が消えた日のことを思い出した方もあるだろう。 その日で牛丼はおしまいだと、新聞やテレビにさかんに出たのに「なぜない」と暴れた男が一人いた。彼の暴力は新聞ダネになったが、おとなしく代替商品を食べた数百数千の客のことは紙面に載らなかった。 実はそれが、ジャーナリズムというものの本質である。親を殺した子の行為は話題になるが、一家団欒はならない。かつて岸信介首相は、反米・反岸デモで日本は革命前夜の様相だがどう思うかと問われ、「だが後楽園球場はきょうも満員だ」と答え、かえって叩かれた。ジャーナリズムは騒乱・混沌を愛し、無事平穏を憎む。また、図星をさされると逆上する。 一月三十一日は、イラク国民議会の選挙が日本の新聞に出る日だった。某紙は一面トップに「投票妨害テロ相次ぐ」「イラク議会選、厳戒下で実施」の大見出しを掲げ、記事の前文にも「スンニ派勢力のボイコット宣言で正当性に疑問が残った」と書いた。人命はよほど大切らしく、これはエジプトのカイロという安全地帯で書いたイラク報告だった。騒然たる選挙を期待して書いている。

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