二〇〇一年三月、アフガニスタンのバーミアンにある二体の大仏が破壊された。破壊したのは、当時アフガンの約九割を支配していたタリバン政権だった。だが『大仏破壊』の“主人公”の一人、タリバンのホタク元情報文化次官はこう証言する。「大仏の破壊は、タリバンの本来の意志でも、方針でもありませんでした。私たちの大部分は破壊に心から反対だったのです」。 ではなぜ、大仏破壊に至ったのか。この謎に挑んだ著者の高木徹氏(NHK報道局)は、綿密な取材と巧みな文章構成で迫真のインサイドストーリーに仕上げている。 発端は、アフガンの全土統一を目指すタリバンの最高指導者オマル師と、国際的な反米ネットワーク「アルカイダ」を率いるビンラディンの「出会い」だった。対ソ連のアフガン戦争当時、ムジャヒディン(イスラム戦士)として闘争に参加したオマルは、当時アラブ義勇兵として加勢してくれた「同志」が反米に転じて母国サウジアラビアを追われ、アフガンに逃れてきたのを「客人」として保護する。 その結果、内戦下のアフガンに和平を希求する神学生組織として出発したタリバンは、ビンラディンの「過激思想」の影響を受け、初めは大仏保護の立場だったオマルを含めて次第に変質していく。タリバンには「ビンラディンはアフガンに災いをもたらす」と主張する穏健派もいた。しかし、ホタク次官をはじめとする穏健派勢力は発言力を失い、ついにはビンラディンに政権を乗っ取られた形となって大仏破壊に及ぶのである。

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