「女王陛下の投資銀行」と呼ばれた名門、英ベアリングズが破綻したのは一九九五年。シンガポール子会社の花形トレーダー、ニック・リーソンによるデリバティブ(金融派生商品)取引で、十四億ドルの巨額損失を被ったのが原因だった。 十年を経て、シンガポールは突然現れたベアリングズの亡霊に怯えている。昨年十一月、中国のジェット燃料輸入を独占する国営中国航空油料集団のシンガポール子会社(中国航空油料=CAO)が、石油デリバティブで五億五千万ドルの損失を出したのだ。 CAOは自主再建を断念、現地の裁判所に法的手続きを申請した。同社は中国航空油料集団とシンガポール政府の投資会社テマセク・ホールディングスから増資を受ける一方、九十八社の債権者に計二億二千万ドル(債権総額の四一・五%)を返却する方向で再建を進めている。 だが、二千六百万ドルの債権を持つ三井住友銀行や韓国のSKエナジーなど債権者からシンガポールの裁判所へ訴訟が相次いでおり、今年六月十日に開かれる債権者会議までに紆余曲折があるのは確実だ。訴訟の内容は様々だが、共通するのはCAOと中国航空油料集団のコンプライアンス(法令遵守)に不信の目が向けられている点。特に注目されるのは、中国航空油料集団がCAO破綻の直前にあたる昨年十月二十二日にドイツ銀行を通じてCAO株の一五%を売却、一億二千万ドルを手にしたことである。

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