李御寧さんはやはり「文化の魔術師」である。『ジャンケン文明論』(新潮新書)では、われわれが慣れ親しんできた「ジャンケン」を通じて、私たちを取り巻く文化の過去、現在、未来をまた見事に分析してくれた。 西洋の子どもはコインを投げて何かを決めるが、アジアの子どもはジャンケンで決める。コイン投げには裏と表という相反する対立しかないが、ジャンケンではグー、チョキ、パーという三すくみの関係性の世界が広がる。 李御寧さんによる、こんな導入からして「なるほど」と思ってしまう。そして次第に古今東西の言葉や行為、概念を自由自在に引き出しながら展開される「李御寧ワールド」にはまってしまう。 李御寧さんは一九八二年に日本人論としては既に名著になっている『「縮み」志向の日本人』(学生社)を発表し、「縮み」をキーワードに日本文化を見事に分析した。その博識と発想の面白さにはまり込んだ読者は多いはずだ。 八九年には『ふろしき文化のポスト・モダン』(中央公論社)を発表、西洋の「カバン文化」の「入れる文化」に対するアジアの「ふろしき文化」の「包む文化」の柔軟性を説いた。 李御寧さんの著書を読み出すと「そうか、そうなんだ」と知的な好奇心をどんどん刺激される快感がたまらない。だが、天の邪鬼な僕は、その一方の頭の中で「これはあまりに面白すぎる。一つのキーワードでくくれない、こぼれてしまった部分があるのでは」と抵抗しているのだが結局は著者に負けてしまう。

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