唐家セン国務委員らの提言を受けデモを容認した温首相は、明らかに誤算していた。ただならぬ事態に、胡総書記は――。「わが党の外交史に大きな汚点を残しました。一九六七年、九九年とあわせ『三大恥辱』と表現する同僚もいます。私も同意します」 中国共産党中央の幹部がいった。四月二日の四川省成都を皮切りに、三週間にわたり週末ごとに中国で繰り広げられた反日デモは、ついに北京の日本大使館や大使公邸、上海の総領事館に対する暴徒騒ぎに拡大した。幹部は、文化大革命中の六七年に紅衛兵らが英代理大使館事務所を焼き討ちした事件、九九年にユーゴの中国大使館への「誤爆」に反発した学生らが米大使館に石や火炎瓶を投げ入れた事件と並べた。 公式には「根本的な原因は日本側にある」と強弁し続ける中国だが、党内部では「深刻に教訓を汲み取るべきだ」との声が広がっているという。党の統治能力の貧弱さが満天下に知れ渡ったからだ。「当初から誤算の連続だった」と幹部は打ち明けた。三月後半からネット上で飛び交った反日デモや集会の呼びかけに、国務院はいかに対応するかをめぐり討議。日本通の唐家セン国務委員や李肇星外相らは「以民促官」の方針を提案した。毛沢東時代に友好団体や経済界など日本の「民」によって「官=日本政府」を促し国交樹立にこぎつけた方針になぞらえ、中国の「民」を以て日本政府に圧力をかけようとしたのである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。