将来の行政長官とも目される香港の若き実力者が、「大中華圏」でのビジネス戦略と香港の将来を語った。 三月十日、北京から香港特別行政区行政長官代行に指名された曽蔭権は、十七人の行政会議員(閣僚に相当)を従え会見に臨んだ。一列に並んだ十七人の向かって右端に陳智思は立っていた。まるで世論を見極めてやるといわんばかりに、周囲をジッと観察しているのだった。 一九六五年一月生れの四十歳。英語名はバーナード・チャン。さらにチャーンワット・ソーポンパニットというタイ名も持つ。父は亜洲保険、亜洲商業銀行などを傘下に置く香港の金融コングロマリット・亜洲金融集団の総帥で、八八年から全国人民代表大会の香港代表にも選ばれている陳有慶(三二年生れ)。 一方で、そのタイ名が示すように、陳一族はタイにも深く根を張っている。叔父はタイ最大の民間銀行であるバンコク銀行の陳有漢会長(チャトリ・ソーポンパニット=三四年生れ)、従兄は同銀総裁の陳智シン(チャートシリ・ソーポンパニット=生年不詳)。そしてバンコク銀行を創業した陳弼臣(チン・ソーポンパニット=生年不詳―一九八八年没)が祖父にあたる。「大老板」は満足しなかった 董建華行政長官辞任騒動の余韻が残る三月十八日、香港の政治・経済の中枢部、中環にある陳智思のオフィスを訪ねた。九龍の高層ビル群が望見できる応接室に入ると、壁に掛かった父の肖像画以上に印象的だったのが、巨大なテーブルの真ん中に置かれたタイのシリントーン王女を讃える写真集。そして高額寄付に対する同王女直筆の感謝状……。

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