嗚呼、芸術の国フランス!

執筆者:大野ゆり子2005年6月号

 大学入学資格試験改革に反対する高校生、エールフランス、救急医、国鉄、メトロ、タクシー。今年になってからのフランスは特にストが多い。二〇一二年のオリンピック開催地に立候補したパリをIOC(国際オリンピック委員会)が視察に訪れた日は、交通機関がゼネスト決行。ライバルのロンドンやニューヨークがパリを揶揄する絶好の機会となった。週末に出るフィガロ誌が社説でスト現象を取り上げ、「フランス社会は互いの信頼を放棄してしまった。(労使関係は)永久に対立し、責任を押し付けあうムードが蔓延している」と嘆いた記事を、どこか対岸の火事と思って読んだ記憶がある。 突然、この問題が自分に及んだのは四月はじめだ。この時、夫はパリの中心部にあるC劇場で、ヘンツェという現代音楽の巨匠のオペラ公演の最終稽古中。本番初日までには十日を切っていた。オペラの練習は(1)指揮者がピアノで行なう音楽稽古(2)演出家が演技をつける舞台稽古(3)オーケストラ練習(4)歌手とオーケストラの合わせ(5)実際の舞台での通し稽古(6)総稽古(ゲネプロ)(7)本番という流れになり、最短でも六週間かかる。この公演にはフランス国営ラジオのオーケストラが契約されていたが、オーケストラ練習に出かけてみると、ラジオ局本体の組合の呼びかけに応じ、オーケストラの譜面係と楽器運搬係がストに突入。コントラバスなど大きな楽器が鍵がかかった倉庫から出せず、譜面もないために、楽団員はいるのに練習できないという事態になった。

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