マレーシアの首都クアラルンプール郊外の国際空港から市内までは、空港エキスプレス列車で二十八分。ターミナルビルの真下に設置された駅から十五分間隔で運行されるため、旅行者にとって一段と便利になった。終点の中央駅で下車すると、目の前には真新しい二棟の大型ホテルが双子の姉妹のように並んでいる。日系企業とタイアップした世界的チェーン網のヒルトンとメリディアンだ。 早速、ヒルトン・ホテルで評判の中華レストランを覗いてみた。メニューをみて驚いたことに、中華料理の定番であるポーク料理が一切ない。目の錯覚か、それともメニューの落丁かと思って確かめたところ、この店では豚肉もラードも一切使わないことを売り物にしているという。特別注文でもポーク料理は用意できないとのことであった。中華料理といえば、豚肉の脂肪からとった半固形の油ラードを使うとばかり思っていたが、ここはそうではなかった。 この店は現在、マレーシアで人気沸騰中の「ハラル・レストラン」だったのだ。これは、イスラム教の掟に従って調理するレストランで、イスラム教の認証団体が発行するライセンスを得て営業するため、安心して食べられる中華料理を求めて、イスラム教徒の常連客が増えている。ハラルとは「許容される行為」を意味し、言ってみればイスラム版ISO(国際標準化機構)に相当する。イスラム教では豚がご法度で、豚のエキスを使った食品もすべて禁止だ。

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