普通に考えれば「ありえない」と言うべきだろう。パレスチナとの紛争、周辺諸国との緊張、そして核保有――。 アラブの海に浮かぶ孤島のようなイスラエルが、自国の安全保障に関してフリーハンドの維持を基本としてきたことは、よく知られている。正体を明かさない核保有や、ドライな武器技術輸出も、その実例である。イスラエルにとり米国という後楯は自国の存立上、不可欠だが、さりとてワシントンの言いなりになる国でないことは、ガザ地区での入植地撤退問題をめぐる両国間の駆け引き一つを眺めても、よく分かる。 ところが、そのイスラエルがNATO(北大西洋条約機構)加盟を考えているのではないかという観測が、今年の二月から三月にかけて国際的に一気に高まった。この観測を生む直接のきっかけとなったのは、一つにはデホープ=スヘッフェル(以下、スヘッフェル)NATO事務総長のイスラエル訪問である。同事務総長は二月二十三日夜にテルアヴィヴ入りし、滞在は二十四時間と短かったが、周到に準備されたプログラムに従い翌日にはシャロン・イスラエル首相、モファズ国防相、シャローム外相、ヤーロン・イスラエル軍参謀総長との個別会談をこなしたうえ、特別講演にも応じた。言うまでもなくこれは、五十六年に及ぶNATO史上でも初めての事務総長によるイスラエル公式訪問である。注目を惹いたのは当然のこと。

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