「ガザ撤退強行」でシャロンが買う“時間”

執筆者:立山良司2005年7月号

パレスチナ側からすれば、イスラエル・シャロン首相の“遅延戦術”は脅威。アッバス議長は時間に追い詰められ始めている――。 時間は特異な政治的資源だ。政治指導者は時間を自らに有利となるよう活用しなければならないが、時の流れを独占することはできない。パレスチナ問題も例外ではない。イスラエルはこの八月、ガザ地区全域とヨルダン川西岸北部の一部からの完全撤退を開始する。背後にあるのは将来を支配しようとするシャロン首相の思惑だ。今年一月に選出されたパレスチナ自治政府のアッバス議長(パレスチナ解放機構=PLO議長)もまた、交渉プロセスという時間的な枠組みを長期化させないよう躍起となっている。ただ、時間をめぐる観念は必ずしも均一ではない。イスラエルのユダヤ教過激派やパレスチナのイスラム教過激派ハマスなどはまったく異なる視点で行動しており、そのことが状況をますます錯綜させている。「既成事実化」をめぐるせめぎ合い シャロン首相は現在、二重の意味で時間と闘っている。人口問題の先送りと西岸における既成事実化の推進だ。「何百万というパレスチナ人を我々は永久に支配することはできない。一世代ごとに彼らの人口は倍増するのだ」と昨年十月のイスラエル国会で述べたように、同首相にとってガザ撤退の最大の眼目は人口動態だ。占領を続ければ「ユダヤ人国家」イスラエルの支配地域でユダヤ人が少数派に転落することは時間の問題だ。百三十万のパレスチナ人が住むガザの切り離しはイスラエルの将来に貴重な余裕を与えてくれる。

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