天竜川上流の長野県辰野町。中央アルプスと南アルプスに囲まれ、総面積の八五%が森林で、六月中旬のこの時期に乱舞する蛍が最大の観光資源という山あいの町で六月十一日、きな臭い政局絡みの発言が飛び出した。「小泉は退路を断って、この法案は妥協しない。通らなければ廃案で構わない。すなわち解散があると私は勝手に感じ取っている」 発言の主は同町出身の飯島勲首相秘書官だった。町村合併五十周年を祝う記念式典の来賓として招かれた飯島氏は祝辞もそこそこに、黒衣役を一時返上し、小泉純一郎首相の胸の内を縦横に語った。「勝手に感じ取っている」という言い方だったが、三十年以上、首相に身近で仕え、心のひだまで知り尽くしている飯島氏の言だ。自民党の山崎拓元幹事長や中川秀直国対委員長の同趣旨の発言とは一味違う生々しさと重みがあった。 六月十九日の通常国会会期末を前に、永田町の関心は首相と、綿貫民輔前衆院議長ら郵政民営化反対派とのチキンレースの行方に集まっていた。岡田克也代表が「首相が解散するなら受けて立つ」と大見得を切った民主党を含めて、「こんな問題で、こんな時期に解散になったらかなわない」というのが大方の与野党議員の本音だった。首相や綿貫氏らも思いは同じのはず、どこかで常識を働かせ激突回避に動くに違いないという見立ても共通していた。それだけに、「小泉に常識は通用しない」と言わんばかりの飯島発言は刺激的に、そして不気味に響いた。

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