イギリスを悩ませるムスリム社会との“距離”

執筆者:サリル・トリパシー2005年8月号

イスラム教徒に対し穏健な政策をとり続けてきたイギリス。その姿勢は変わるのか――。[ロンドン発]ロンドン市内で起きた同時多発テロを受けて、イギリスのイスラム教徒(ムスリム)社会は当分の間、わずか数人の、しかもイギリス人でさえないかもしれないテロリストのために、針のむしろに座らされることになる。 テロから一夜明けた八日は、イスラム教徒にとって礼拝日の金曜日だった。ロンドンのモスク周辺には、怒気を含む陰鬱な空気がたちこめていた。地下鉄が爆破された現場のひとつに近いオルドゲイトのモスクでは、三十歳の店員、アシフ・マジドが、筆者にこう噛みついてきた。「なにをのこのこ出かけてきたんだ。どうしてこんなことが起きるのかなら、ブレアに聞けよ!」。 だが、多くのイスラム教徒は抑制した反応を見せた。 シャウカット・カーン(六一)は、犠牲者の中にもムスリムがいることを指摘しながら、こう言った。「イスラムは平和の宗教です。イスラムの名のもとにロンドンを爆破する者がいたとしても、イスラム教がそれを許しているわけではありません」。 アハメド・オスマン(三六)が「今回の事件でイギリスのムスリム全体の暮らしが困難になったことを、犯人は認識するべきだ」というと、周囲の者は一様にうなずいた。その日、モスクに向かう地下鉄の中で周囲から冷たい目で見られ、怖かったと語る者もいた。

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