ナチス・ドイツに対する旧ソ連の戦勝六十周年記念式典が、五月にモスクワで開催された。出席した小泉純一郎首相は大歓迎を受けたことになっているが、実情はどうも違うらしい。 北方領土問題に進展がなく、今年初めの線で合意していたプーチン大統領訪日も実現しないまま。そんな中での訪露は「国辱」との声さえあるのに敢えて踏み切ったのは、そうすれば、さすがの大統領も訪日時期を明確にすると読んでいたからだ。 だが、実際には訪日時期は確約されず、そればかりか、赤の広場で行なわれた式典では当初、ロシア、フランス、米国の首脳が陣取る雛壇中央から遠い席が小泉首相に指定され、首脳会談の場も市内のホテルと伝えられた。日本の外務省が大慌てで申し入れた結果、式典の席順はプーチン大統領に比較的近い、イタリアのベルルスコーニ首相の隣に、会談場所もクレムリンへと変えられたものの、厚遇とは言えない。 大統領訪日の日程は、五月末の日露外相会談でも確定せず、六月にトヨタ自動車の現地工場起工式に出席した森喜朗前首相にようやく明かされた。返す領土より受ける投資が優先というプーチン政権の姿勢をあらためて見せつけられた形だ。

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