シリア内戦への軍事介入をめぐる議論は、ブッシュ政権による2003年のイラク戦争開戦とのアナロジーでもっぱら論じられる傾向がある。軍事行動への参加を否決した英国議会の議論でもそうだった。日本でもイラクとの比較・類似を根拠に議論が展開されていることがきわめて多い。

 しかし、シリア内戦への介入の是非や手法をめぐる議論には、「イラク・アナロジー」はあまり適切ではない。確かに、ブッシュ政権が対イラク開戦の際の法的根拠として主張したのがフセイン政権による大量破壊兵器保持だった。現在のオバマ政権も、アサド政権による化学兵器の使用に対する懲罰として、限定的なシリア空爆を行うことを提唱している。しかし似ているのはこの部分だけである。イラクでこの問題が争点化したのは、湾岸戦争での停戦条件として国連安保理決議687(1991年4月3日)で、イラクに大量破壊兵器の廃棄が義務づけられたことが発端である。2002年11月8日の国連安保理決議1441ではイラクが武装解除義務の重大な不履行を犯していると非難し、全面的な査察の受け入れを求め、違反が続けば「重大な帰結」をもたらしうるという文言が盛り込まれた。ブッシュ政権側はこれを2003年のイラク戦争の開戦の主要な根拠とした。

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