六月九日に閉幕したシリアのバアス党大会で注目を集めたのは、一九六三年に発令されて以来続いている緊急事態についてどのように議論されるかだった。国内外に民主化をアピールする手段として緊急事態の解除へ道筋が示されるのでは、という観測が一部にあった。しかし結局は緊急事態諸法制の適用を部分的に緩和するにとどまった。 緊急事態の長期化はエジプトにも共通している現象である。昨年末から相次いだデモと政府批判では、緊急事態の解除が要求項目の筆頭に挙げられた。緊急事態諸法制は強権支配に形式的な合法性を与え、政治的異議申し立ての公然化を阻止することで、中東諸国の政権を維持する鍵となっている。政権と野党勢力の間の具体的な争点は、この緊急事態をめぐるものとならざるをえない。四十二年も続く「緊急事態」 緊急事態(あるいは「非常事態」state of emergency)において、立憲主義が政府に課している制限やチェック機能を一時的に緩め行政権限を拡張することを可能にする規定は、程度の差はあれ、立憲主義と民主主義が確立した諸国の憲法にも組み込まれている。しかしそれはあくまでも一時的に立憲政体を維持するための例外規定であり、明白に差し迫った内外の危機を克服するための、いわば「劇薬」である。

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