七月五日、国会周辺は朝から息詰まるような緊張感に包まれていた。午後の衆院本会議で行なわれる郵政民営化関連法案の採決で自民党から予想を超える大量の造反が出そうだ、との情報が前夜から駆け巡っていたからだ。反対派のリーダー、綿貫民輔前衆院議長(郵政事業懇話会会長)が四日夜、議長時代にコンビを組んだ渡部恒三前衆院副議長(民主党・無所属クラブ)に「否決は確実になった。反対票だけで三十五票集まった」と伝えたとの噂も流れていた。小泉純一郎首相が主要国首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)出席のため英国訪問に出発する前日のことである。 一睡もできなかったのか、自民党の武部勤幹事長は午前八時半から国会内で開いた正副幹事長会議に血走った目で現れた。「非常に危険な状況になっている。『このままでは本当に解散になってしまう』と一人でも多くに働き掛けてくれ」。武部氏は反対派の切り崩しを指示すると、副幹事長たちをせき立てるように会議を打ち切った。だが、事態の深刻さは党執行部の前線司令部とも言うべきこの会議にも影を落としていた。かねて民営化反対を表明していた松宮勲(亀井派)、小泉龍司(旧橋本派)両副幹事長が、造反を予告するように会議に姿を見せなかったのである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。