元切り上げで見えた中国経済の「根本矛盾」

執筆者:五味康平2005年9月号

経済発展のスピードだけは国内が“ひとつ”でなくてよいとトウ小平が認めた「改革・開放」。胡政権はいま、そこからの大転換を迫られている。 七月二十一日夕刻に中国政府が発表した人民元の切り上げは、瞬間的には世界に驚きと期待を与えたが、時間がたつにつれ、疑問と失望を広げている。二・一%というあまりに小幅な切り上げ幅は、「一日あたり上下〇・三%」という市場変動による連続的な切り上げの可能性を今後に秘める。だが、中国の出方をみていた多くの人には肩すかしの印象しか与えていない。一方で為替市場には「これで終わるわけはない」と追加切り上げの期待も根強く残る。 中国指導部は切り上げの事実だけに語らせ、余分な説明はしない方針のようだ。いかにも中国的で、わかりにくい今回の切り上げは一体、何を意味しているのか。 断定的に言えば「ひとつの中国」の矛盾だろう。 中国には三十一の省・直轄市・自治区があり、五十五の少数民族がいる。面積は九百六十万平方キロと米国に肩を並べる。地理の勉強をしているわけではない。中国の大きさ、多様性を確認したいだけだ。このサイズ、多様性に十三億人という人口が加わった時、国家はひとつにまとめあげるのに気が遠くなるほどのエネルギーと工夫を必要とする。

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