日本の繊維産業は今、復活を賭けた最後の戦いに挑んでいる。その命運を左右するのがナノテクノロジーである。「ナノテクを医療用透過膜などの先端産業分野の製品だけでなく、アパレル(衣料品)分野の製品にも積極的に応用展開していく。それによって中国に奪われたアパレルの覇権を取り戻し、産業分野と共に世界の繊維産業をリードする」。東レ繊維加工技術部長の丁野良助の言葉は、大仰に聞こえるが、そこにはなんのてらいもない。 ナノレベル(一ナノは一ミリの一〇〇万分の一)で分子構造などを制御してまったく新しい素材を誕生させるナノテクは、すべての産業の技術革新につながる可能性を秘めている。高機能・高品質の新素材を創造できれば、想像を絶する産業競争力を得られる。 だからこそナノテクは、どの国にとっても二一世紀初頭の大国家戦略であり、アメリカはNNI(国家ナノテクノロジー政策)を軸にこの五年間で政府分だけでも約四四〇〇億円の研究資金を投入してきた。日本はさらに突出していて、科学技術基本計画に沿って政府・大学分で年間三五〇〇億円(二〇〇三年度)もの資金を投じている。EU(欧州連合)もNNアクションプラン(ナノサイエンス・ナノテクノロジー行動計画)で、個別国家予算とは別にこの五年間で一六〇〇億円を費やしている。

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