近年、国際論壇に巨大なインパクトを与えた米国人の欧州論といえば、ロバート・ケーガンの『楽園と力について』(邦題・ネオコンの論理)が真っ先に思い浮かぶ。ケーガンは、米国がホッブズ的「万人の万人に対する戦い」に身を投じ、覇権への道を切り拓いているのと対照的に、統合欧州は歴史の終わりに出現するカント的永世平和の自己完結的世界に安住しようとしており、欧州はもはや米国のパートナーではないと喝破したのである。『ネオコンの論理』は二年前、イラク戦争を開始したブッシュ政権が内包する独特の世界観を啓示したものとして読む者に戦慄を覚えさせた。 だが、イラクの泥沼化とあいまって二期目のブッシュ政権は欧州との関係修復姿勢を前面に押し出すに至っている。 こうした中、ケーガン流の「欧州切り捨て論」ではなく、本書『「ヨーロッパ合衆国」の正体』(八月二十五日刊)のような「欧州見直し論」の登場は時宜を得たものと言えるだろう。 ワシントン・ポスト紙の東京支局長も務め、親日家として知られるトム・リードが上梓した本書は、「欧州を知らなさすぎる米国人」を啓蒙すべく、時には低い目線で現在進行形の欧州の息遣いを丹念に追い、欧州の強さと米国に突きつける脅威を詳述した「旧大陸発見の書」である。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。