スピードを武器に東芝のパソコン事業を立て直してきた「異色の男」は、社長となって全社の改革を実現することができるのか――。 学生時代は「IBMもソニーも、もちろん東芝も知らなかった」。大学院でフッサールの現象学について大論文を書き、今でもマルクス左派のドイツ人哲学者ユルゲン・ハーバーマス(七六)の著書を愛読する。学生結婚した妻の母国はイラン。新婚生活を送ったそのイランで照明機器を取り扱う東芝の合弁会社に入社したのは二十九歳の時だった――。 こんな風変わりな経歴の西田厚聰(六一)が六月二十四日、東芝社長に就任した。「改革は急務」。東芝がそう指摘されるようになって久しいが、前社長で現会長の岡村正(六七)も、その前任者で現相談役の西室泰三(六九)も、ともに志半ばで退いた。「脱・総合電機」を志向しているといわれながら、実は東芝はまだ、重電も白物家電も手放していない。十年前の社長就任時に「選択と集中」を高々と掲げた西室は昨年、「改革はまだせいぜい三合目」と自省も交えて評している。 二〇〇〇年から西室の後任として「選択と集中」路線を引き継いだ岡村は、東大ラグビー部から東芝入社後もフォワードとして十年間プレーしたという生粋の体育会系。保守的で長幼の序に重きを置く岡村は、どこか改革者に似つかわしくない雰囲気を漂わせる。表立った批判を避けてはいたものの、西室はテンポの緩い岡村体制に早々と見切りをつけ、次代に期待を寄せている感があった。

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