幼い頃、母親が注意するのもきかず、火にかけてある鍋の側で遊んでいて転倒し、左半身に大やけどを負った。治りかけた皮膚がくっついて、包帯を交換するときにひどく痛む。診療所の奥で看護師が「ここでは泣いてもいいのよ」と言ってくれた。 それが「看護」の原体験だと、南裕子・国際看護師協会(ICN)会長(六三)は語る。父親を戦争で亡くし、貧しい母子家庭に育ったために、たいていのことは我慢できるようになっていた。そんな自分の気持ちを看護師がくみ上げてくれた。「その体験に加えて、いろんな本を読むうちに、人の心に興味をもったことが看護師の道を選んだ理由です。人の心をもっと知りたい。病気に苦しみ、傷の痛みに耐えているとき、人は飾らない本当の姿を見せるのではないか、そう思いました」 そして今、看護学の中でも、南さんの専門は精神看護だ。 一八九九年に設立されたICNは百二十九の国・地域の看護団体をとりまとめ、貧困、AIDSなど様々な問題について、看護という視点からの対策を講じる。南さんは五月から四年間の任期で、第二十五代会長に選ばれた。兵庫県立大学で副学長を務めながら、ICNの本部があるジュネーブには年二回ほど出張し、加盟各国を視察する。

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