「和食が無形文化遺産」にあえて苦言を呈する

執筆者:国末憲人2013年11月3日

 アゼルバイジャンのバクーで12月に開かれる無形文化遺産委員会で、日本が提案している「和食:日本人の伝統的な食文化」が、無形文化遺産の代表リストに登録される見通しとなった。候補を事前審査する補助機関が「登録」を勧告したからだ。日本人が生み出した素晴らしき生活の知恵を世界に認識してもらうきっかけになると期待できるだろう。

 と、基本的に喜ばしいことであるのを承知したうえで、食品関連の業界の一部が「和食材の消費拡大を」などとはしゃぐのを聞いていると、ちょっと待ってくれと言いたくなる。「無形文化遺産」は、世界各地のコミュニティーが育んできた無形の文化を守り伝えるためにつくられた制度である。その理念を、どこかではき違えていないだろうか。

 無形文化遺産の原則とこれまでの経緯を振り返ることで、和食の登録が意味することを考えてみたい。

 

文化行政の事なかれ主義

 無形文化遺産は、2006年に発効した無形文化遺産保護条約に基づき、各国から推薦のあった候補をリストに登録する制度で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が運営する。緊急に保護する必要がある遺産を登録する「緊急リスト」、各国の代表的な遺産を登録する「代表リスト」など計4つのリストがつくられている。芸能や伝統工芸技術、儀式や祭礼、知識や慣習、口承表現などが対象だ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。