「貧困と貧政」の島ハイチの暗い前途

執筆者:藤原章生2005年10月号

[メキシコシティ発]国連軍が監視を続けるカリブ海の小国ハイチは安定に向かうのか。「今年四月ごろに比べ、誘拐も減り、治安は良くなりつつある」。首都ポルトープランスに暮らす外交官はこう語る。だが、アリスティド前大統領が米軍らの手で出国させられた二〇〇四年二月末と比べ、政治情勢に大きな進展はない。貧困層が構成するアリスティド派は依然として自分たちは政治的に排除されていると感じている。その限りにおいては、彼らが暴発する不安を取り除くことはできない。 ラトルチュ首相ら反アリスティド派を中心に〇四年三月に発足した暫定政権は、現在のところ新政権発足のための大統領・議会選を十一月二十日、地方選を十二月十一日、大統領選の決選投票を来年一月三日に予定している。予定通り進めば、暫定政権の任期が切れる来年二月七日に新政権が発足する運びだ。 新政権発足の鍵となるのは、選挙に全ての派閥が参加するかどうかにある。ハイチ政治の主な派閥は(1)貧困地区で圧倒的な支持を得る前与党「ラバラス・ファミリー」らアリスティド派(2)現暫定政権を支持する前野党、反アリスティド派(3)アリスティド政権下(九一年、九四―九六年、〇一―〇四年)で排除された旧国軍――に三分される。昨年の争乱は、同じ島の東部を占める隣国・ドミニカ共和国に逃げていた(3)の旧国軍がもたらしたものだ。アリスティドは九一年に軍のクーデターで国を追われたため、九四年に復帰した後、軍を解体した。これが禍根となり、重武装した旧国軍が“捲土重来”をはかったのが争乱の主因だった。

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