自国とは異なる国で起きた犯罪をあえて訴追する「普遍的管轄権」を、以前フォーサイトで紹介したことがある(2013年10月21日「国家に縛られず犯罪を裁く『普遍的管轄権』とは――マドリードを訪ねて」)。

 通常の裁判管轄権は国境に縛られるが、国際秩序を揺るがす恐れのあるジェノサイド(大虐殺)や「人道に対する罪」の場合、独裁者や国家機関が罪を免れないためにも、当事国以外の国が罪を問える、との考え方である。1990年代後半から2000年代にかけてスペインの予審判事バルタサル・ガルソン氏がこの制度を利用し、チリの独裁者ピノチェト元大統領やアルゼンチンの独裁政権幹部を次々と訴追して、大きな反響を呼んだ。

 しかし、訴追のたびにわき起こる当事国からの猛反発に手を焼いたスペイン政府は、根拠となってきた司法権組織法を2009年に改正し、司法当局の権限を縮小。起きた国や関係者の国籍にかかわらず訴追する権限を司法当局に与えていた制度を改め、訴追の範囲を「スペイン国民が被害者となるか、被告人が国内にいる場合」などと限定した。ガルソン予審判事も2010年に解任され、多くの人が「スペインの普遍的管轄権は死んだ」と受け止めていた。

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