中国の防空識別圏設定は「米国への挑戦」

執筆者:野嶋剛2013年11月25日

 尖閣諸島上空を含む東シナ海の空域に中国が新たに設定した防空識別圏(ADIZ)によって、尖閣諸島上空まで中国の防空識別圏に入ってしまうことになり、日本では「尖閣諸島領有を狙う中国の新たな1歩」という分析が多く見られた。それは必ずしも間違いではないが、より俯瞰的に見れば、現在の防空識別圏が歴史的に米国主導の「反共ライン」に沿って決められていたことに対し、今回、中国が明確に異議を唱えたものであり、本質的には東アジアにおける米国の軍事覇権に対する中国の挑戦の一環と見るべきだろう。

 現在の防空識別圏を決めたのは日本ではない。米国である。1945年に日本を占領した米国が設定し、その後、沖縄返還に先立って1960年代末までに日本に引き継がれた。その際、中国と交渉したことはなく、米国が圧倒的に優勢な空軍力のもと、いわば勝手に引いた線であるのが事実だ。

 そのため、防空識別圏の中国との境界は日中の中間線を大きく超え、中国の排他的経済水域の空域に深く入り込んで、中国側の領海にもかなり近づいているところまで広がっており、中国が不公平感を持つのも分からないではなく、この従来の防空識別圏に中国が不満だったことは周知の事実であった

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。