楽天―TBSの黒幕にも擬された“カリスマバンカー”が、郵政民営化を最後の舞台に選んだ。いや、「担ぎ出された」と言うべきか。「身に余る光栄だ」――。「郵政民営化会社」の持ち株会社初代社長に指名された十一月十一日、西川善文前三井住友銀行頭取(六七)はこう語り、さっと頬を紅潮させた。UFJグループ統合争いで三菱東京フィナンシャル・グループに敗れ、金融庁の厳しい検査をかわせず赤字決算にも追い込まれた末の頭取退任。尾羽打ち枯らしてのち五カ月、西川氏久々の晴れ舞台だ。 にもかかわらず、郵政改革への意欲を懸命に語る西川節にはどこか哀愁が漂う。「カリスマバンカー」と長年持て囃されてきた西川氏の宿命を想わずにはいられない。 楽天の三木谷浩史社長(四〇)が突然TBS株の大量取得を明らかにし、経営統合を申し入れた十月中旬、金融業界では「黒幕は西川」との観測が駆け巡った。「志半ばで三井住友銀行トップの座を追われた西川氏が、失地回復の狙いも込めて、日本の企業社会に変革を起こす三木谷構想の支援を買って出た」(大手行幹部)。そうした絵解きを聞かされれば、誰もがそうだろうと納得した。 三菱東京とのUFJ統合抗争では自らTOB(株式の公開買い付け)やUFJ株主総会でのプロキシーファイト(委任状争奪合戦)まで検討し、「日本にも欧米流の本当の資本主義の時代が来る」と言った西川氏。西武鉄道の上場廃止に伴うコクドとの再編劇では、メーンバンク三行の一角のトップという立場ながらも、村上ファンドの買収提案を支持したことさえある。

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