政府・与党は、世論の不安の声を押し切って特定秘密保護法を強行採決によって成立させた。内閣支持率は下落し、衆議院段階で最初に妥協して法案成立の流れを事実上決定付ける役割をはたした「みんなの党」は分裂した。

 もともと、秘密保護法に対する野党とメディアの反応は鈍いものだった。その背景には、この種の「問題法案」を強行採決までして通すことはない、という「常識」があった。

 メディアは、「一般の国民が飲み屋でたまたま秘密に関わる話をしたら逮捕される」といった漫画的な情景を描いてみせたが、問題の本質は、そうした日常生活の息抜きのレベルで論じられるものではない。その程度のことであれば、「国の安全が優先する」という政府・与党の論理には対抗できないだろう。

 この問題の本質は、主権者である国民が、政府の意思決定を評価するための十分な情報を得られなくなる恐れがある、というところにある。国民は、政府によって、外国の侵略から守られるべき存在であるとともに、自らの意思によって政府を選択し、政府が誤った戦争を起こさないよう監視する主体でもある。ゆえに、たとえ「国の安全」のためであっても、国民が判断するために必要な情報が提供されなければならない。それは、民主主義が機能するための最も基本的な条件である。その基本を踏まえきれなかったために、メディアの混乱と一部野党による安易な妥協が生まれた。それは、かつて日本を戦争の道に進ませた翼賛体制を彷彿とさせるものでもあった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。