無味乾燥な法律の条文に、なんらかの文学的な喜びを見出すことは難しいのだが、次の一文には筆者は深い感銘を覚える。

 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

(日本国民法第772条)

この条文を書くときに、「推定」という言葉を選んだ法律家には、人間の男女の絆とその脆さを活き活きと描き出す類まれな才能があったのではないだろうか。そうである。男には、自分の子供が本当に自分の子供だと確かめる術はなかったのである。少なくとも、DNA親子鑑定などの検査技術が普及する、最近までは。

 最近、お茶の間を賑わした事件と言えば、元光GENJIで俳優の大沢樹生さんが、女優の喜多嶋舞さんとの離婚に伴い、引き取り育てていた16歳の長男が、DNA親子鑑定の結果、自分の子供ではないことが判明した、と発表したことだろう(週刊女性 2013年12月24日発売)。

 その後の経緯や事実関係などに関しては、すでに多くの報道がなされているが、筆者自身は、この問題では、現代の結婚や子の扶養に関する法律の不備に注目している。

 というのも、こうした結婚や子の扶養に関する法律というのは、DNA親子鑑定などが全く普及しておらず、本当に親子かどうかは、情況証拠などにより間接的に立証するしか方法が無かった時代に作られているからだ。

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