「目の前にニンジンをぶらさげられる」とはこういうことか、とため息の出るような光景だった。十一月二十一日、来日中のプーチン・ロシア大統領を招いて都内のホテルで開催された「日露経済協力フォーラム」。大統領が到着する前に「前座」を務めたロシア随行団の経済界代表からは、ロシア・ビジネスへの「誘い文句」のオンパレードだった。「ロシアで採れる液化天然ガス(LNG)などへの日本の需要が大きいことは知っている。今後、日本側との対話の材料になろう」(天然ガス最大手ガスプロムのミレル社長)。「アジアは未来につながる有望な販売先だ」(石油大手ロスネフチのボグダンチコフ社長)。必死でメモを取る日本企業の参加者の姿が目立った。 人口一億四千万人、天然資源も豊富なロシア市場への日本企業の進出ラッシュが止まらない。在モスクワ日本商工会の加盟社数は、二〇〇三年五月に六十五社を数えたが、〇五年十月時点では百十七社と二年半でほぼ倍増。〇五年四月にトヨタ自動車がサンクトペテルブルク工場建設を発表したことなどを受け、関連企業の進出は今後も続く見通しだ。 かつて、日露間で「経済協力ニンジン論」といえば、日本側が経済協力拡大を材料に領土問題などを動かそうとする意味だった。けれど、ロシアがブラジル、インド、中国とともに「BRICs」という名の新興経済グループの一つと再定義されるようになった今では、「ニンジン」はロシア側の手に移った。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。