独裁者のジレンマ(上)独裁体制と国民の声

執筆者:武内宏樹2014年1月19日

 先週ルイジアナ州ニューオーリンズで開催された南部政治学会(Southern Political Science Association)で、筆者は「比較権威主義体制」(comparative authoritarianism)をテーマに3つの分科会を企画した。米国内外から集まった12人の政治学者が、「権威主義」と一括りにされる、民主主義でない政治体制をめぐって終日活発な議論を交わすことになった。日本から周りを見渡せば、中国も北朝鮮も民主主義でない政治体制であるから、しばしば「独裁」ともよばれる権威主義体制の下での政治のあり方を考えることは日本人にとっても意味のあることではないかと思われる。そこで、3回にわたって権威主義体制下のリーダー、つまり「独裁者」の政治について、彼らのジレンマに焦点を当てて考えてみたい。

 「独裁者」と聞くとどのようなイメージを持つだろうか。「独裁」という言葉が示すように、側近の言うことも聞かず、ましてや国民の不満、要求などお構いなしに独断でものを決め、やりたい放題するという、文字通り「独断専行」「唯我独尊」の冷酷でひとりよがりの塊のような支配者であろうか。

 政治学でも長年、民主主義でない政治体制を「独裁体制」と呼び、民主主義の指導者が国民の声に応えなければ政権を維持できないことと対照的に、独裁体制の下では、軍や秘密警察といったいわば暴力装置を、支配者が思いのままにあやつり、国民を抑圧して統治するという姿が強調されてきた。言ってみれば、国民の声を聞かなくてもよい独裁者のほうが、民主主義のリーダーよりも政権を維持するのは容易だと思われてきたのである。

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