十一月上旬、シンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスの幹部たちは予想もしなかった知らせに驚き、落胆した。テマセクが出資計画を進めていた中国第二の国有銀行、中国銀行が、突然「計画を白紙に戻す」と伝えたからだ。両者は去る八月末、テマセクが三十一億ドルを投じて中国銀の株式一〇%を取得し、さらに中国銀の上場時(市場では二〇〇六年春が有力視されている)にも、五億ドル分を追加で買い入れることで合意していた。 ストップをかけたのは中国銀の最大株主の中央匯金投資公司。「株式売却価格が安すぎる」というのが理由だと、ある関係者は解説する。背景には、十月二十七日に実施された中国建設銀行の香港上場をきっかけに、中国国内で「外資に国家資産を安売りするな」との批判が急速に高まっていることがある。 建設銀は上場に先立ち、戦略的提携先として選んだ米大手銀バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)とテマセクの二社に、それぞれ株式の九%と五%を売却した。売却価格はPBR(株価純資産倍率=株価が企業の一株あたり純資産の何倍かを示す)で見てバンカメが一・一五倍、テマセクは一・一九倍。公開時のPBR一・九五倍に比べれば、確かに割安の値付けだった。中央匯金の役員たちが、これに注目しないはずはない。

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