独裁者のジレンマ(下)中国とナショナリズム

執筆者:武内宏樹2014年1月28日

 昨年12月26日付の日本経済新聞の「経済教室」欄に、元駐中国大使の宮本雄二氏による「中国『真の改革派』と連携を」という興味深い論考が掲載された。宮本氏によると、2008年の世界経済危機を契機に中国国内で対外強硬派が台頭し、以後国際協調派との間で外交問題をめぐりつばぜり合いが続いてきたという。2012年の尖閣国有化に前後して起こった反日デモも、対外強硬派の台頭を踏まえればある程度説明がつくかもしれない。

 宮本氏の論考でもう1つ興味深い点は、国内政治における改革派と外交問題における国際協調派が同じグループだという指摘である。逆に言えば、国内政治において経済改革に反対する保守派と外交問題における対外強硬派が同じグループだということである。

 日本人にとって、2012年の尖閣国有化の前後に起こった反日デモの衝撃は記憶に新しいであろう。当時、共産党政権は反日ナショナリズムを利用して国民を団結させ、腐敗、所得格差、インフレといった国内問題に対する不満をそらそうとした。すなわち、一党独裁体制を強化する一環であるという論評も見られた。

 はたしてナショナリズムの高揚は独裁者にとってメリットなのだろうか。イエール大学アシスタント・プロフェッサーのジェシカ・ワイス氏は、中国の共産党政権はナショナリズムに基づいたデモ発生をコントロールするノウハウを持っており、民衆の抗議行動は共産党政権の外交路線と矛盾しない範囲に収まっていると主張する。確かに、安倍首相の靖国神社参拝後に中国国内で大規模な抗議行動が起きていないことは、共産党政権が反日ナショナリズムをコントロールできているということを示唆しているように思われる。コントロール可能なナショナリズムは、国内の政権に対する支持を強固にし、したがって独裁体制を強化することになるといえるかもしれない。

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