日本では想像する術もないが、米国政治において移民問題は、右へ行くか、左に行くか、賛成か否かといった、常に国論を二分する議論を生み出してきたといえる。しばしば「米国は移民の国」と言われるように、建国以来(というより建国前から)米国外で生まれた人たちによって国の礎が築かれてきたのであるから、移民問題が政治・経済・社会をめぐる根本問題として認識されてきたのは当然のことであろう。

 サザンメソジスト大学タワーセンターで講演するパッセル氏
サザンメソジスト大学タワーセンターで講演するパッセル氏

 それゆえに、米国では移民問題をめぐる活発な議論が各地で頻繁に展開されている。ここテキサス州ダラス、筆者が所属するサザンメソジスト大学タワーセンター政治学研究所でも、1月30日に1つの講演があった。米国を代表する世論調査機関のピュー研究所(Pew Research Center)上級研究員である移民問題の大御所、ジェフリー・パッセル(Jeffrey Passel)氏による「人口動態の変化と政治への影響」(Demographic Changes and Their Political Impact)と題したものであった。

 パッセル氏は数学の博士号を取得した人口学者というユニークな経歴の持ち主である。講演の冒頭で「私は人口学者として移民問題に向かい合っているが、政治的な議論には何ら関わっていない」と言って聴衆の笑いを誘った。パッセル氏の冗談に聴衆がすぐに反応したことからもわかるように、日本では移民問題を身近な問題としてとらえることは皆無といっていいだろうが、米国では移民問題はたちまち論争を喚起するテーマなのである。そこで、パッセル氏の講演をもとにしながら、2回にわたって「移民の国アメリカ」の実像を論じてみたい。

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