「プーチンのクリミア計画」は実現するか

執筆者:名越健郎2014年3月3日

 ロシアによるウクライナ領クリミアへの軍事干渉は、まだ本格化していないとはいえ、ウクライナの分裂や東西の新冷戦につながる無謀な行為だ。プーチン政権には、2008年のグルジア戦争で欧米諸国は結果的に手を出せず、グルジア新政権が親露政策に舵を切ったという「成功体験」が念頭にありそうだ。

 

独立直後から分離志向

 筆者はソ連崩壊直後にクリミアを3度訪れたことがあるが、当時、最大の産業である観光がソ連解体で大打撃を受け、経済は麻痺していた。ガソリンスタンドは長蛇の列で、街中にロシア通貨ルーブルへの交換を求める市民が並び、エネルギー不足でホテルも昼間はお湯が出なかった。黒海艦隊本拠地セバストポリも訪れたが、時代遅れの老朽船ばかりで、部隊の士気も弛緩していた。

 しかし、ソ連最大の保養地だったクリミアの自然と気候はすばらしかった。特に「黒海の真珠」とされるヤルタは、亜熱帯の緑の植物群と紺碧の海、石浜のビーチ、帝政時代の街並みがマッチし、別天地だった。チェーホフの小説さながらに、帝政ロシア貴族が闊歩した雰囲気が海岸通りに残っていた。ロシアが「固有の領土」のクリミアをあっさり手放したのも驚きだった。

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