ベネズエラのチャベス前大統領の死去から3月5日で1年がたった。政権を引き継いだマドゥロ大統領は、加速する経済の混乱と治安の悪化、反政府勢力との暴力的対立が激しさを増す中で、4月に就任1周年を迎えようとしている。

 2月12日の学生による抗議行動に端を発した反政府勢力と政権側の対立は、すでに犠牲者が20人を超す深刻な事態に至っており、治安当局や政府系の武装組織「コレクティボ」による反政府デモへの攻撃など暴力の拡大、反対派指導者の逮捕、言論の封殺、人権侵害の拡大に懸念が広がっている。

 政権と反政府の分極化は、すでに国内からの話し合い解決の余地を残さないほど深まっているが、国際社会の反応も鈍い。マドゥロ政権は、ウクライナ情勢に世界の関心が向けられることで援けられた感がある。ベネズエラ出身の国際コラムニスト、モイセス・ナイムが米アトランティック誌上で嘆いているように、ウクライナ情勢と比べベネズエラ危機の国際的波及力が弱いだけに、「ベネズエラの悲劇」はなお深刻であるとも言えよう。明らかにベネズエラの反体制派は国際社会から見捨てられている【リンク】。

 

地に墜ちた米国の影響力

 事態を憂慮する米オバマ政権だが、収拾に向けて、かつての「勢力圏」「裏庭」で、中南米諸国をまとめ外交的な指導力を発揮できる立場にはもはやない。2月17日、マドゥロ政権は、学生の抗議活動に加担したとしてアメリカ大使館職員3名の国外退去を命じ、オバマ政権もベネズエラ外交官3名を追放する対抗措置に出た。だが、米政府は、国内対立が米国との2国間関係に発展することを恐れ、話し合いによる平和解決を求めるものの、不在となっている大使級の関係回復を提案するなど、融和的な姿勢を維持している。これに対し、キューバ系のマルコ・ルビオ共和党上院議員(フロリダ州)は、「第2のキューバ化」を進める独裁政権への対応として生ぬるいと政権批判を強めているが、石油の輸入禁止など一方的措置も効果は薄く、むしろ政権側の「反米帝国主義」のキャンペーンに火を注ぐことになりかねない。これまでの米国政府の対応は、この10数年に及ぶ左派政権の台頭の中で、中南米におけるアメリカ政府の影響力の低下をむしろ実証するものとなっている。

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